
【実録】AIが「割安」と判定した物件を10件内見してみた:数値と現地のギャップから見えたもの
Home QuestのAI査定で「乖離率マイナス」と判定されたお宝物件。しかし、実際に足を運んでみると数値には現れない意外な真実がありました。10件の内見調査から、2026年の賢い物件選びの極意を公開します。
1. はじめに:AI査定は「地図」であり「コンパス」ではない
2026年2月現在、日本の不動産市場、とりわけ東京都心のマンション市場は歴史的な転換点の真っ只中にあります。2025年末に日本銀行が政策金利を0.75%まで引き上げたことは、長らく続いた超低金利時代の終焉を告げる決定的なシグナルとなりました。この金利上昇局面において、住宅ローン利用者の心理は「積極的な買い進み」から「厳格な資産価値の精査」へと劇的にシフトしています。
こうした不透明な市場において、不動産分析プラットフォーム『Home Quest』が提供するAI査定と「乖離率」という指標は、情報の非対称性を打破するための強力な武器となります。しかし、開発者である私自身が最も強調したいのは、「AI査定はあくまで統計的な理論値に過ぎない」 ということです。
不動産という資産には、国土交通省:不動産鑑定評価基準で定義される「個別的要因」が複雑に絡み合っており、そこにはデータクレンジングでは排除しきれない「現場の真実」が必ず存在します。今回は、Home Questで「割安(AI推定価格より売り出し価格が低い)」と判定された都心物件10件を自ら内見し、数値と現実の間にどのようなギャップがあったのかを詳述します。
2. 数値上の「100点」が現地で「0点」になる理由
AIが得意とするのは、専有面積、築年数、駅徒歩距離、過去の成約事例データといった定量的データの解析です。一方で、周辺環境の微細な変化、共用部の管理状態、コミュニティの雰囲気といった定性的データは、現在のアルゴリズムにおける「死角」となります。
今回のフィールドワークで見えてきた、代表的な3つの乖離事例を紹介します。
【事例1】中央区・築12年タワーマンション(乖離率 -18%)
数値上は2026年度税制改正による「40平米緩和」の恩恵をフルに受ける絶好の投資物件に見えました。しかし、現地を調査した結果、その「安さ」には明確な理由がありました。
- 現実の要因: 当該住戸が「救急車の主要搬送ルート」に面しており、深夜の不規則なサイレン音による騒音被害が深刻でした。
- 分析: AIは[鑑定評価基準]における「社会的要因(交通利便性)」を高く評価しますが、個別の窓の遮音性能や特定の音源による「心理的・生理的ストレス」までは考慮しきれません。この騒音リスクが実需層を遠ざけ、-18%という大きな乖離を生んでいました。
【事例2】世田谷区・築25年低層マンション(乖離率 -15%)
AIは国土交通省のマンション管理指針に照らした修繕積立金の積立額から「管理良好」と判定していました。しかし、エントランスに一歩足を踏み入れると、異様な光景が広がっていました。
- 現実の要因: 掲示板には住民間のトラブル(騒音、ベランダ喫煙、ゴミ出し)に関する警告文が異例の密度で貼られていました。
- 分析: 書類上の「管理計画」が長期修繕計画標準様式に準拠していても、コミュニティの「ソフト面の劣化」は数値化できません。これは将来的なリセールバリューを毀損する重大なリスクです。
【事例3】港区・築35年フルリノベ物件(乖離率 -22%)
内装は非常にモダンで、表面的なスペックは完璧でした。しかし、管理組合の議事録を5年分精査したところ、衝撃の事実が判明しました。
- 現実の要因: 建物全体の給排水管の老朽化が進んでおり、全館で漏水トラブルが頻発。大規模な配管更新のための「一時金」徴収の協議が難航していました。
- 分析: AIは「リノベ済み」というフラグをプラスに評価しますが、専有部の壁の裏側に潜む「インフラの寿命」までは捕捉できません。将来の数百万円単位の追加コストを考えれば、この-22%の乖離は決して「割安」ではなく、むしろ「適正」なディスカウントでした。
3. 2026年特有の変数が生む「市場の歪み」
2026年の市場では、制度改正や法規制の変化が価格に反映されるまでの「情報の時差」が、賢い買い手にとってのチャンスとなっています。
① 「40平米緩和」による資産性の再定義
財務省:令和8年度税制改正の大綱により、住宅ローン減税の所得制限付き40㎡緩和が恒久化の方向へ進んでいます。これにより、これまで投資用と見なされていた都心の1LDKが「実需資産」として再評価され始めています。AIが過去の「50㎡の壁」に基づいた低い評価を算出している間に、優良な40㎡台を確保する戦略は極めて有効です。
② ハザードリスクと2028年問題の先読み
国土交通省:ハザードマップポータルサイトの情報を市場は急速に織り込んでいます。特に、2028年から予定されている「災害レッドゾーン内住宅の減税除外」を見越し、物件自体がハザード外であっても、駅からの道中が「浸水深5mエリア」を通るような物件は、将来の買い手が限定されるため、現在のAI判定以上に価格調整が進む傾向にあります。
4. 失敗しないための「AI併用・内見チェックリスト」
AI査定を「お宝物件のスクリーニング」として使いこなしつつ、最後は自分の五感で判断するためのフィールドワーク・チェックリストをまとめました。
| チェック項目 | AIが捉えにくい理由 | 確認方法(プロの視点) |
|---|---|---|
| 周辺の建築計画 | 既存の地図データには未来の建物がない | 建築計画看板の有無、空き地の用途確認 |
| 管理組合の議事録 | ソフト面のトラブルは外部非公開 | 仲介会社を通じて直近3〜5年分を請求 |
| 共用部の規律 | 住民の意識は数値化できない | ゴミ捨て場の分別、駐輪場の整理状況 |
| インフラの履歴 | 配管の寿命は図面から判別不能 | 長期修繕計画書との整合性を確認 |
| 環境的な異臭・音 | 時間帯や季節で変動する | 窓を開けての確認、雨の日の周辺状況 |
5. 結論:数値の向こう側にある「真実」を掴む
今回の10件の内見調査を通じて改めて感じたのは、「AIが提示する割安シグナルは、物件の背後に潜むドラマへの招待状である」 ということです。
その物件が相場より安い理由が、単なる売主の住み替え急ぎという「幸運」によるものなのか、あるいは現地でしか分からない「致命的な瑕疵」によるものなのか。それを判断するのは、最終的にはあなた自身の経験と、公的な不動産鑑定評価基準に基づいた冷静な洞察です。
Home Questは、これからもAIのアルゴリズムを磨き続けるとともに、今回のフィールドワークで得られたような「定性的な経験データ」を解析に統合していく予定です。数値という「盾」を持ちながら、自らの足という「剣」で、2026年の荒波を越え、理想の一軒を勝ち取りましょう。
出典・参照資料
- 国土交通省:不動産鑑定評価基準について
- 国土交通省:不動産情報ライブラリ(成約価格データの出典)
- 国土交通省:マンション管理の適正化の推進に関する法律に基づく指針
- 財務省:令和8年度税制改正の大綱(住宅ローン減税関連)
- 日本銀行:金融政策決定会合 発表資料(2025-2026)
- 国土交通省:ハザードマップポータルサイト
AI査定で「お宝候補」を探してみる
実地調査の前に、まずは効率的にエリア内の割安物件を特定しましょう。Home QuestのAI査定なら、最新の市場トレンドを反映した「本来取引されるべき価格」と、現在の販売価格のギャップを瞬時に可視化します。
Home Quest 開発者 / 執筆者
工学修士 / 不動産オーナー(東京23区内マンション複数所有)
工学系の大学院を修了し、修士号を取得。現在はシステム開発をはじめ、データを用いた事業戦略の策定や業務支援に従事し、定量的・論理的なアプローチによる課題解決を専門としています。 個人でも東京都内23区に投資用マンションを複数所有・運用しており、管理会社との直接交渉や市場分析を日々実践。 「データの透明性」と「オーナーとしての実体験」を掛け合わせ、ユーザーが損をしないための客観的な物件評価アルゴリズムを開発しています。