
なぜHome Questを開発したのか:既存の不動産ポータルにはない「透明性」への挑戦
「相場がわからない」「業者の言葉が信じられない」。開発者自身が23区内で2件のマンションを購入する過程で直面した不動産業界の『情報の非対称性』。自らの失敗からAI査定ツール『Home Quest』を作り上げるまでの全記録。
はじめに:情報の非対称性が支配する「不動産」というブラックボックス
2026年現在、東京23区の新築マンション平均価格は1億3,000万円を超え、歴史的な高値圏にあります。一般の会社員にとって、都心に家を持つことは単なる住居の確保を超え、生涯をかけた巨大な金融投資、すなわち「YMYL(Your Money or Your Life)」領域の重大な決断へと変質しています。
しかし、これほど高額な取引であるにもかかわらず、不動産市場は依然として「情報の非対称性」という深い溝に支配されています。買い手と売り手、そして仲介業者の間に存在する圧倒的な情報格差。この構造的な不平等に挑戦し、個人がデータという武器を持って対等に戦える場を作りたい。それが、私が「Home Quest」を開発した唯一にして最大の動機です。
本記事では、一人のエンジニアである私が、なぜ安定した職を持ちながらこのサービスを個人開発するに至ったのか、その裏側にある失敗の記憶と哲学を公開します。
1. 最初の挫折:大手ポータルサイトの「数字」に踊らされた日々
私が不動産市場に深く関わるようになったきっかけは、数年前、自分自身の居住用マンションを23区内で探したことでした。当時は、誰もがそうするように大手不動産ポータルサイトを毎日眺めていました。しかし、すぐに一つの疑問にぶち当たりました。「この掲載価格は、一体何に基づいているのか?」という疑問です。
仲介業者の多くは「今が買い時です」「このエリアはブランド力があるので値下がりしません」と主張します。しかし、国土交通省:不動産鑑定評価基準で定義されているような、自然的・社会的要因に基づく客観的な根拠が示されることは稀でした。結局、私は「担当者がそう言うから」という、今思えば非常に危うい根拠で最初の物件を購入しました。
購入後しばらくして、近隣で同スペックの物件が、私が買った価格よりもはるかに安く成約していた事実を知りました。情報の非対称性がもたらす「数百万円単位の損失」。これを身をもって体験した時、一般消費者がアクセスできる情報の質が、プロの業者と比較してあまりにも限定的であるという現実に強い憤りを感じました。
2. 二件目の購入で見えた「データの力」と公的指標の重要性
一件目の失敗を教訓に、二件目のマンションを取得する際は戦略を180度変えました。「信じられるのは、実際に取引された『成約データ』だけだ」という確信です。
私はエンジニアとしてのスキルを活かし、国土交通省:不動産情報ライブラリなどのオープンデータを収集・分析し始めました。どの駅の、どの築年数の物件が、平米単価いくらで動いているのか。膨大なデータを解析し、自分なりに不動産鑑定評価基準に準拠したロジックで「適正価格」を算出したのです。
データという羅針盤を持つことで、初めて冷静な判断が可能になりました。 「この物件は内装は綺麗だが、エリア相場より10%高い。リノベ費用を乗せすぎている」 「この物件は管理状態が悪そうに見えるが、成約単価から逆算すると、実は土地値に近い掘り出し物だ」
この経験から、データによる価格の可視化こそが、不透明な不動産取引を民主化する鍵であると確信しました。
3. Home Questが解決する「既存メディアの構造的課題」
なぜ、既存の大手ポータルサイトはこの「透明性」を提供してくれないのでしょうか。そこには、不動産業界の根深い収益構造の問題があります。
大手サイトの主な収益源は、不動産業者からの広告掲載料です。ビジネス構造上、広告主である業者が嫌がる「この物件は相場より割高です」という情報を積極的に出すことは困難です。また、財務省:令和8年度税制改正の大綱等で議論される最新の税制優遇(住宅ローン減税の床面積要件緩和など)の情報も、物件の「売りやすさ」を優先するがあまり、正確な判定基準がユーザーに伝わらないケースも散見されます。
Home Questは、個人開発のサービスです。特定のスポンサーや不動産業者の顔色を伺う必要はありません。だからこそ、AIが算出した客観的な適正価格と、市場価格との「乖離率」を包み隠さず提示できるのです。
4. 管理と維持:ハードウェアを超えた「資産価値」の守り方
開発を進める中で、私はもう一つの重要な真実に辿り着きました。それは「マンションの価値は、竣工後の管理で決まる」ということです。
どれほどAIが算出した価格が適正であっても、国土交通省:マンション管理の適正化の推進に関する法律に基づく指針に示されるような適切な管理が行われていなければ、将来の資産価値は守れません。Home Questでは、長期修繕計画標準様式・作成ガイドラインに準拠した管理が行われているかをユーザーが意識できるよう、管理情報の重要性を説いています。
5. 私たちのミッション:誰もが「納得して」住まいを選べる世界へ
Home Questのゴールは、単に「安い物件を見つけること」ではありません。不動産という人生最大の買い物において、誰もが「納得感」を持って決断できる世界を実現することです。
「AIの判定では相場より8%高いようですが、その根拠は何ですか?」 Home Questの画面を武器に、ユーザーが不動産業者と対等に渡り合えるようになること。情報の壁を崩し、個人が主体性を取り戻すこと。それこそが、私のエンジニアとしての、そして一人の居住者・投資家としての挑戦です。
Home Questは、これからも皆様の不動産選びにおける確かな羅針盤であり続けます。
出典・参照資料
Home Quest 開発者 / 執筆者
工学修士 / 不動産オーナー(東京23区内マンション複数所有)
工学系の大学院を修了し、修士号を取得。現在はシステム開発をはじめ、データを用いた事業戦略の策定や業務支援に従事し、定量的・論理的なアプローチによる課題解決を専門としています。 個人でも東京都内23区に投資用マンションを複数所有・運用しており、管理会社との直接交渉や市場分析を日々実践。 「データの透明性」と「オーナーとしての実体験」を掛け合わせ、ユーザーが損をしないための客観的な物件評価アルゴリズムを開発しています。